あなたの商売のとんがりを考える時に、物体移動簡便さは手放したほうがいい。

アパレルは、店頭にあるドレスをお客様のクローゼットに移動させるのが商売

の1つの側面だ。

でも、これはアマゾンやメルカリの得意技、同じことをしてもいいことにはならない。

アマゾンは物体のみならず、映画やビデオなど、ソフトウェアも移動させている。

正面からぶつかって勝てるわけがない。

コンビニエンスストアは食品、文具、雑誌、店によっては薬もワンストップで

手に入る。お金の支払いも、おサイフケータイなどでキャッシュレス。

名前通り、コンビニエンス(簡便さ)を極めつくそうとしている。

やがて店員さんも人間が消えてロボットかセルフレジになる。

歴史を振り返ると、必ず「揺り戻し」が起こっている。

鎌倉幕府以来500年、武士が政権を握り、その間ずっと戦争だった。

それが秀吉の天下統一によりもう戦わなくて良い、となった。

安土桃山時代、豊かな文化が華開いたのは、揺り戻しだ。

茶道、歌舞伎(出雲阿国)、狩野派絵画・・・といった

豊穣な文化が生まれた。

特にアメリカ発経営理論のおかげで、

生産性向上、効率、省力化・・・

といった「切り捨てる」「省く」文化にプラスの符号がつけられてきた。

ビジネスホテルのチェックインと冷蔵庫に、一番顕著にあらわれている。

一日の移動と仕事に疲れてチェックインしようとするお客様は

器械の画面操作をし、「どうぞごゆっくりおくつろぎください」と

器械音声に言われてついお礼を言ってしまったりしている。涙が出る。

日本で最初に客室内冷蔵庫を空っぽにしたのは品川プリンスである。

自分で買ってきて入れろ。

ビジネスホテルの料金体系に「クオカードつき」というのがあるのは

会社の出張規定が厳しくなって、その範囲内で旅費を収めようとする

出張族にせめてものギフトなのである。

ああ、世知辛い。

イエス。

アメリカンな経営って、性悪説だし(空港の身体・手荷物検査を思い出そう)、

世知辛いんだよ。

今回、JOYWOW夏祭りで、本を手売りした。

出版社の倉庫から読者の手元へ本の物体移動するだけならアマゾンにお任せだ。

一人ひとりにサインして、名前書いて、付箋貼って、カード書いて、

封筒に書き込んで・・・。

すると、みんな、お金持ってくるときに、封筒に入れて、何か書いて

来てくれたりする。

また、ある読者は手作りのカードを送ってくれた。メッセージ、もちろん、手書き。

彼女とはフェイスブックでつながっているから、スマホでささっとメッセージすれば

それで意図は通じるのに。

いや。

通じないなあ。

ここが大事。

みーちゃんこと瀧 川 美 咲さんはエステティックサロンを経営している

お客様一人ひとりにしっかり向き合い、

LINEでお客様が送ってきた食事の写真を見て丁寧にアドバイスする。

「まるで彼氏です(笑)」

お客様の幼ない頃からの身体や肌の歴史、現在の生活習慣を詳しくヒアリングし、

一人ひとりに合ったオーダーメイドのケアを作っていくのが流儀だ。

「お客様がエステに求めるものは、たとえば『痩せたい』という表現になります。

しかし、じっくりお話をお伺いしていると、幼い頃の親との関係が原因で

自分に自信がないことが根っこにあったりします。

つまり、深掘りすると、

自分の人生の道を自分でしっかり歩いている自信を持てない、

ということが真の望みだったりするのです」

じっくり向き合い、食事の内容まで踏み込んでアドバイスする。

お客様は確かに痩せる。

痩せるが、痩せる・痩せないを超えて「自分が好きになった」

といった報告を受けるようになる。

こういうお客様との向き合い方は大手のエステチェーンではできない。

できないからこそ、スマホを片時も離さず、LINEで丁寧にやりとりする。

みーちゃん自身も子どもの食事を用意したりしながら。

エステの提供する価値つまり変化は一般的には「美しくなる」

だが、「美しさ」は10人いれば10通りある。

本来、手間ひまがかかるものなのである。

そして、物体移動と簡便さが大きな顔をしている今だからこそ、

手間ひまかけることに、金脈が眠っている。