大ベテランのキャプテン(機長)と話していて、

とても興味深いことを聞いた。

ぼく「機長がフライト中に判断することって、山のようにありますよね?

どうやっていますか?」

ベテランのキャプテン「判断は、しないようにしています。

経験を積めばつむほど、わたしは、判断を、捨ててきました」

面白い!

ちょうどいま読んでいる本について話していて、

上のような対話になった。

ジョナ・レーラー『How We Decide』(邦訳『一流のプロは

「感情脳」で決断する』門脇陽子訳、アスペクト刊)

人が何事か判断するとき、「いくつかある選択肢を

よく吟味して」「その上でプラス・マイナスをじっくり考え」

た上で合理的になされる

・・・と一般的に思われているよね? 常識的には。

しかしながら、この本で紹介されている数々の事例は

実のところ、人はそんなに合理的に判断したりしない

ことを教えてくれる。

そう、マルコム・グラッドウェルの傑作『blink』(邦訳『第1感』、

沢田博・阿部尚美訳、光文社刊)と同じ系統の議論だ。

5種類のジャムを用意する。

いずれも、『コンシューマー・レポート』誌で1位、11位、24位、

32位、44位になったものだ。

被験者であるバージニア大学心理学学生たちには

「ただ、ジャムを5種類用意した」ようにして味見

してもらい、順位をつけてもらった。

結果、『コンシューマー・レポート』誌で専門家がつけた順位と

変わらなかった。

次に、別の学生グループにも同じ味見をやってもらった。

今度は「なぜそのジャムが他のジャムよりおいしいと思うか」

理由を文章で書いて添えるようにした。

すると自分の味覚の印象を分析するようになる。

分析に言葉をあてはめることになる。

結果、最初のグループと『コンシューマー・レポート』誌両方が

「最低の味」と最下位にしたジャムが「最もおいしい」とされた

1位のジャムよりもおいしいという結果になった。

これはどういうことだろうか。

ジャムを味わう。基本、どれもおいしい。

そのおいしさを言語化・・・たとえばジャムの伸びの良さ、とか、舌触りの良さ、とか

を分析し始めると、本能的に感じるおいしさの喜びを理性が打ち消してしまうのだ。

さて、この結果のおかげで、ぼくは持論に論理的裏づけができたと思う

(本の中では、ジャムだけではなく、住宅のような高額商品を購入するケースも

事例として挙げていて、同じ結論になっている)。

ホテルや旅館、またはレストランで「お客様アンケート」をしているところ、

あるよね?

ぼくはずっと反対していた。

ホテル、旅館、レストラン、いずれも商品は「感じる」ものだ。

アンケートは「分析する」ものだ。

分析していくうちに、「そういえば、廊下が暗かったような気がする」

とか、「テーブルのあの部分が汚れていた」といった、およそ全体印象、

体験には関係のない部分が「言語化されて実体化」する。

そうなると、マルがバツへと変化しかねないのである。

最下位のジャムが1位のジャムを追い抜く珍現象が生まれたように。

つまり、「体験を売るビジネスでは、いかに顧客が理性を使わないようにするか」

が重要なポイントなのだ。

アンケートなんか、もってのほかなのである。

同時に、ドリンクの「目隠し実験」も無意味だ。

なぜか?

お客さんは(特別な趣味の人以外)、目隠ししてドリンクを楽しんだり、

しないからである。

不二家のパンケーキ。おいしいものは、おいしいのだ。以上!

不二家のパンケーキ。おいしいものは、おいしいのだ。以上!