『しあわせの雨傘』(2010)

カトリーヌ・ドヌーブ主演。

フランソワ・オゾン監督。

ドヌーブといえば、『シェルブールの雨傘』(1963)だが、未見だったので、

二作品いっぺんに買ってみた。

左『シェルブールの雨傘』『しあわせの雨傘』

左『シェルブールの雨傘』『しあわせの雨傘』

公開順番からいうと『シェルブール』から観るべきなんだろうが、名作はややもすると

退屈だったりするので、『しあわせ』から観た。

結果的に、これで正解だったと思う。

ドヌーブは1943年生まれだから、現在68歳。『シェルブール』の時20歳だったわけだ。

いやー、それにしてもこの『しあわせの雨傘』、毒の強い作品である。

一見、ふわふわしたフランス映画かな、と思わせる導入部なのだが、そこにも時限爆弾の

ようにストーリーの伏線が張られている。

一回観ただけではわからないかもしれないので、二回目、是非、注意深く作品冒頭のシーンを

観て下さい。

ストーリーを、ネタバレにならない範囲で紹介すると、舞台は70年代の雨傘メーカー。

『シェルブール』へのオマージュとして雨傘が出てくるのが面白い。

フランスで傘を作るなんていうのは現代ではまず無理だから、時代設定は70年代だ。

ドヌーブはその傘メーカーの社長夫人。

周囲からは「良妻賢母」な人と見られている。そして、何の苦労もない「お飾り」の社長夫人と。

子どもたちまで「お飾り」ぶりを批判され、バカにされている。

ダンナである社長はビジネス1.0な人。そのおかげで、社員からは嫌われている。

「文句あるやつは切る!」パワーマネジメントをするものだから、ストが深刻化し、

持病もあって、現場を退かなければならなくなった。

そこでみんなが「まさか」と思ったことが起こる。

「お飾り」の夫人が社長代行することになるのだ。

ビジネス1.0から2.0的な、「人を大事にするマネジメント」を社長夫人がはじめ、

おかげで会社は持ち直し・・・と、こうなるのだが、実はストーリーはここからが

本番。

夫人の過去が明かされていくにつれ、「シェルブール」のドヌーブがどんどん変容を

遂げて行く。

そう、外見容貌の変化(1963年→2010年 47年!)だけではなく、「あんたたちのもってる

ドヌーブのイメージ、壊してやろーじゃねーの!」とばかり、どんどん毒が画面に沁み出てくる。

面白いねえ。

その後『シェルブールの雨傘』を見ると、その革命的な創造性(セリフがすべてミュージカル!)

はさすがにすごいのだが、ヒロイン(ドヌーブ)に何で主人公は惚れたんだろう、と同じ男と

して考え込んでしまう。そこがジャック・ドゥミ監督の腕のすごさ。

若いときは、ややもすると、男(女)は女(男)の外見だけに惹かれて「私の生涯唯一の

人!」とのぼせあがってしまう。

ところが、この映画の主人公は徴兵のおかげで、その「のぼせあがり」に水をぶっかけられる。

本人にとって「徴兵」とそれが原因となる「別れ」はどうしようもないほどの「不幸」なのだが、

本当に不幸だったかどうかは、わからない。「人生の幸不幸なんてものは・・・」というのが

この作品のテーマなのである。

ドゥミ監督、さぞや女性関係ではさんざん経験を積んでいるのであろうな、と同じ男として

思わずニヤリ、としてしまう秀作なのであった。

どっちか一つ、という方は、『シェルブールの雨傘』をお勧めします。