「ええか、うちは客に警報器を売ってるんやないで。『恐怖』を売るねんで」

「キョウフ、ですか? ぼくはもめんが好きです」

「アホ、それはトーフや!」

「お焼きってどう作るか知ってはります?」

「えーっと、あれはやね、まずトーフを作ってからバーナーで火を・・・

ってお前、トーフから離れなさいっ!」

「トーフがあかんかったら湯豆腐作られへん。どないしまんの」

「せやねえ。トーフ抜きの湯豆腐はありえへんからねえ。どっかそのへんの

スーパーで探してこなあかんねえ・・・って離れろっって!

・・・ええか、これはなんとかいうコンサルタントの本に載ってた

方法やけどな、毎日、売り込みたい客の家、行くやろ」

「ほうほう」

「ほんでな、玄関の前の道路でな、たばこ、すうねん」

「ぼく、たばこ、やめてますけど」

「ちゃうやろあほ、営業のやりかた説明してんねん。だれがお前がたばこ

すうかどうかきいてんねん」

「わかりました。ライターは百円のやつでよろしか?」

「なんでもええっ! ほんでな、たばこ、火つけるやろ、ちょっとすうたら、

玄関先の道路に、捨てとくねん」

「あかんやん!」

「しーっ、大きい声出すな、って。ほんでな、次の日も、また次の日も、

行って、たばこの吸い殻、玄関先に、置いとくねん」

「で、まとめてあとで回収する、と」

「そうやね。ぼくらは街をきれいに、地球にやさしく・・・って

どあほ! ええ人になってしまうやろ!

そしたらやな、そこの奥さん、心配するやん。何か気持ち悪いやん。

その恐怖、得体のしれへん怖さがつのったちょうどその頃、

ピンポーンするやん」

「キャーーーーッ!!」

「ってアホ、おまえが怖がってどないすんねん。

『奥さま、最近、このあたりで、物騒な事件が続いているようですね』

どやっ、これで警報器売れるやろ」

以上、劇団ビジネス1.0の脚本その1「警報器メーカーの巻」でした。