<ネタバレあり。映画未見の人は読まないでください>
『風立ちぬ』観たよ。2回。昨日と今日、立て続け。
重い映画だった。
でも、ジブリ作品では最も好きな映画だ。
何しろ音がすごい。
モノラルを見直しているところなんだけど(そもそも波動スピーカーもモノラルだし)、
この映画で再度、モノラルの素晴らしさを認識した。
地震の音にノックアウトされた。
地鳴りで、311を思い出した。311で「まるで人の声みたいな音」と思っていた。
映画では本当に人の声で表現していた。震え上がった。怖かった。しんそこ。
そして最後、ユーミン『ひこうき雲』。ターンテーブルが回って、
針がレコードに乗る音まで録音されている。
まるでこの映画で使われることを知っていたかのようなユーミンのデビュー曲。
すごい。
天はすごいこと、するね。
で、映画のテーマだけど、主人公と同じくクリエイターのはしくれとして、
「二郎はどんだけ幸せなんだ!」
と思ったよ。
クリエイターは周囲に迷惑な人である。
最も被害を受けるのは家族。特に奥さん。
ところが、二郎と菜穂子夫婦の結婚生活に
日常はなく、いつも「非日常」だ。
「余命わずか」という非日常で始まり、そして終わる。
結婚生活は、一瞬の「ハレ=非日常」の後、「ケ=日常」がえんえん続く。
ところが二郎夫婦は「ハレ」ばかり。
彼らは一度もケンカしていない。
ケンカしない夫婦は幸せかというと、ぼくは幸せとは言えないと思う。
しかし二郎は「ケンカする味わい」を知らないから、不幸せとも思わない。
とにかく「美しいもの」を外部環境がどんなに変化しようが、追求する。
これは宮崎監督が自身と重ねて描いているのだ。
この映画であらためて思うことが三つある。
第一は、さっきも書いた、「クリエイターは迷惑な人」。
第二は、「達成感は迷惑」。
海軍からの依頼スペックは非常識なものだった。
それを二郎たちチームは
がんばってクリアしてしまう。みんなの達成感。
『プロジェクトX』みたい。
でも、迷惑なんだよね。
その結果、多くのパイロットの人命が失われる結果になった。
達成感は、迷惑なのである。
これ、ひきつづき、組織論につなげて考えていく。
第三は、「男は歴史でいつもしょーもないことをやり、女は常にスマート」。
この映画に出てくる女性たちは、みんな魅力的である。
アタマがいい。
特に黒川夫人(声・大竹しのぶ)にはホレボレする。
最後菜穂子の後を追いかけようとする妹・加代を止めるときのセリフ。
「汽車に乗せてあげなさい」(だったか、うろ覚え)
「美しいところだけ、好きな人に見てもらいたかったのね」(うろ覚え)
これは効く! このセリフで、涙が出る。
この映画、けっしてカタルシスはない。
宮崎監督は、観客を突き放す。
だから毀誉褒貶があって当然だと思う。
だからこそ、ぼくはこの映画を、ただひたすら、すごい、と感激するのである。