ハワード・シュルツ『スターバックス再生物語 つながりを育む経営』

を読んでいる。これで何回目だろう。
カバーを外すとこんなに素敵な写真が

カバーを外すとこんなに素敵な写真が

シュルツが経営の第一線からひいたのが2000年。
その後、現場で見かけるスターバックスは、道を失い始めている
ことに気づく。たまらず、2008年1月、CEOに復帰する。
それからの泥臭いストーリーなのだが、何回読んでも新たな発見があり、
読んでいて飽きない。ただ、読んでいる最中に、待てよ、ここでシュルツが
言っていることって、昔ぼくはメルマガSurfin’で書いてなかったっけ?
と思い、古いバックナンバーを引っ張り出したら、あった。
これが1998年初出のものです。長くなるので、まずはバックナンバーを
転載し、考察は「ぼくたちの大好きなスタバ-2」として別にしますね。
(転載開始)
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Aloha from
電脳市場本舗
〜Marketing  Surfin’98〜
7. Aloha report-2;Starbucks Coffee
<1>  自分たちの音が聞えなくなったら
ハワード・シュルツ  スターバックスコーヒー会長が著書* の中で言っている。
* スターバックス成功物語、ハワードシュルツ&ドリー・ジョーンズ・ヤング、
小幡他訳、日経BP社、1998/4/27;原題「Pour Your Heart Into It」
・ イタリアのエスプレッソ・バーを見ているうちに私は気がついた。スターバ
ックスは大事なことを見逃していたのだ。極めて重要な問題だ! と私は思った。
顧客との絆を見逃している。
・ 問題ははっきりしている。スターバックスは質の良いコーヒー豆を扱ってい
るが、店でお客にコーヒーを飲ませていない。われわれはコーヒーを農産物とし
て扱い、袋詰めにしてお客の家に届けているだけなのだ。
これらは、彼が経営に乗り出す以前のスターバックスの問題点を指摘した個所で
ある。
そして、著書の最後のほうで、ビートルズがコンサートをやめたくだりについて
触れ、こうも言っている。
・ テレビ番組では、ポールとジョージ、リンゴがテーブルを囲んでツアーの中
止を決意した理由について語り合っていた。「みんなが叫べば叫ぶほど、われわ
れのバンドの質が落ちてゆく」とポールが言った。「歓迎されるのはうれしいけ
ど、自分たちの音が聞こえなくなったんだ」。その言葉を聞いて私は愕然とした。
自分たちの音が聞こえなくなったら、もはや何のために歌うのかわからなくなる。
ビートルズは自分たちの音を再発見するために、スタジオに戻らなければならな
かったのだ。
スターバックス。大阪に住んでいるので、最初に出会ったのは今年一月のロス空
港であった。東京に進出している店には行ったことがない。
マイアミまでのフライト・コネクションの待ち時間つぶしにぶらぶらしていたら、
スターバックスがあった。「何じゃ、これ?」
そしてその店の独特の雰囲気が「何かある」と思わせるものがあった。
早速入り、帰国前のフライトでも、立ち寄った。ユナイテッド機内でも、飲んだ。
帰国してから、先述の翻訳本が出版され、読み、興味を持った。ロスに留学中の
友人Rさんに「どう?」とかサウンドしたりした。彼女は、スターバックスを大
学でのプレゼンテーマに選んでいるくらい研究していたので、現地の店舗のデジ
タルカメラ画像を送ってくれたり、した。
そしてスターバックスは、ぼくの「五感マーケティング」のテーマ店舗に、なっ
た。
<2> 「五感マーケティング」とは?
「五感マーケティング」というものを、ここで少し説明させてください。
従来のマーケティングが、いわゆる、「手で触ることができる製品」を中心に成
立していたものだった。例えばコトラー教授のマーケティング原理などは、その
ような「固い」製品に対するマーケティングの体系である。これを「数を数えら
れる」ことから、[tangible]マーケティングと呼んでみる。[Visible]マーケテ
ィングと呼んでもよい。キィワードは、部分、分析、論理、図表、である。
それらに対して、今日のようにサービス、つまりInvisibleを中心に大半のビジ
ネスが成立している場合には、新たな、より、人間の感覚からのアプローチを中
心に据えたマーケティングが必要なのではないか?  [intangible]マーケティン
グ。[Invisible]マーケティング。キィワードは、全体、包括、感覚、雰囲気、
である。
「言葉にはできないけれど、その店に行ったら、何となく落ち着く」
「どこがどういいのか、うまく言えないけど、いいんだなあ」
こういうことって、あるでしょう?
ぼくにとって、スターバックスの店舗は、そういうものだったのだ。
<3>  事業ドメインが変わったのか?
さて、2年ぶりのホノルルは、かなり変わっていた。その「変化」の大部分を、
スターバックスが形成していた。
つまり、スターバックスの店舗が、あちこちに増えていたんだ。ということは、
典型的なアメリカの街に、なりつつある、ということだ。
カハラ・モールにはバーンズ&ノーブル書店内と、モール内に、2店もあったし、
アラモアナ・ビーチパーク前ワードセンター近くにある、クレイジーシャツのア
ウトレット横にも進出していた。驚いたのはDFS(デューティーフリー・ショ
ッパーズ)店内にもあることだ。何だか、猛烈にわらわらと店舗数を増やしてい
る様子。もちろん、ホノルル空港内にも、あった。そうだ。ユナイテッド機内の
コーヒーも、そうだ。
どこにでも、あった。
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こうなると、スターバックスは、自らの事業ドメインを変えたのではないのか?
と思わざるを得ない。そう言えば、旅行中読んだニューズウイークで、「ありふ
れた休暇旅行」を描写するのに、「どこへ行っても、結局はスターバックスでコ
ーヒーを飲むようなもの」という表現があったような気がする。
「コーヒーを楽しむことができる店舗」から、「どこに行ってもあるコーヒーの
コンビニ」へと、ドメインは変遷したのではないのか?
事業のマーケティングキィは、エステート、不動産問題に移ってしまう。日本で
いうなら、マイカルなどの大型店舗の進出の際、最も事業計画を左右する問題で
ある。スターバックスの場合は、たいてい建物の一角を使うだけであって、不動
産としての投資金額はわずかだと思うが、それでも、事業の中心が、不動産を中
心に回り出しているおそれが充分に、ある。つまり、「数えられる」ファクター
が、大きくなってきている、ということだ。ぼくはこれによって、「自分たちの
音が聞えなくなって」きていなければいいのだが、と案じる。実際、店舗内のス
タッフの顧客対応は素晴らしいし、コーヒーの味も、おいしかった。しかし、と
ぼくは思う。あの、グリーン、白、黒で構成されたトレードマーク、セイレンが、
「ありふれ」になってしまっているのではないか?
店の「とんがり」が、どこにあるのか、わかりづらくなってきている。
<4> 波子老師、ライフサイクル論を語る
ここで波子老師に登場してもらおう。彼は昔、ニフティ・サーブのマーケティン
グ・フォーラムで言っている。
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@Surfrider        波子/ライフサイクル論は嘘の巻
( 7)   96/09/14 16:48
巻之弐 ライフサイクル論は嘘の巻
波子が浜辺で日焼けをしていると、弟子の万子がやってきて問うた。
万子「先生。先生はお若い頃ご執筆の『電脳市場本舗』で、『ライフサイクル
論は嘘』ということを喝破されたときいておりますが、もう少し詳しく、ご教
授願えませんか」
波子「所謂、『導入期、成長期、成熟期、衰退期』というやつじゃな。あれ
は、本当に、ある」
万子「へ? いえ、先生は、あれは誤りだと、おっしゃったのでは」
波子「誤りでは、ない。わしの理論も、正しい、と言うただけじゃ」
万子「ウソー!! 『あれはウソやで』って、書いてあったもん」
波子「ひとには、そう読めるかもしれんのう。でも、その通りじゃ」
万子「はー。先生のおっしゃることは、やはりわれわれ凡人には理解できかね
ることが多うございます。ところで、先生が提唱なさった理論について、お話
戴けませんか」
波子「簡単なことじゃ。ある製品・サービスが市場に出たとする。新人歌手を
イメージすれば良いじゃろう。最初の受け手の反応は『?』じゃ。『なんじ
ゃ、これ?』。次に、その歌手が、『いたらいいな』(had better)とな
り、『いないと困る』(must)となり、最後は、『まだ、いたん!?』であろ
う」
万子「そういえば先日紅子さまが、『波子先生、まだ、おったん?』とおっし
ゃっておいででした」
波子「なあにい!! 紅子、そんなことより、論文を早く仕上げなさい!!」
Ride the BIG TUBE !!
Surfrider  96/09/14/16:48
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さて、ここで注目したいのは、波子先生が言っている新・ライフサイクル論であ
る。
1st stage  ?:何?  これ
2nd stage  had better:あったほうがいいな
3rd stage  must:ないと困る
4th stage  最後:まだあったん!?
スターバックスは、このうち、どうやら、すでに3番目のステージに来ているよ
うである。あまりの急展開の店舗数の増加は、ドメインの混乱を招き、へたをす
ると、自らの寿命を縮めることになりかねない。
先ほど紹介したRさんは現在日本に帰国していて、新宿のスターバックスに行っ
た。その時の感想は「スターバックスに来たというより、アフタヌーンティール
ームに来たような」感じがした、というものである。
ここでぼくは、結論づけるつもりはない。一つの仮説として、ここで提示するに
とどめる。まだまだぼく自身、スターバックスの実際の店舗に行っていないから。
アメリカのメインランドではどうなのか、あらためて行ってみないと、と思って
いるが、まさかコーヒーを飲むためだけにアメリカに行くわけにもいかないので、
同時に気になっているほかのテーマ、例えばハード・キャンディの創設者ディー
ナ・モハージャがつかまるとかしたら、渡米計画をたてようと思う。
もう一つ、今回のホノルルで気になったのはボディ・ショップが「ありふれ」の
感じに見えたこと。カラカウア通りの東のはじっこ、ハイアット・リージェンシ
ーをカピオラニ公園方面に少し歩いたところの角の店舗が、ボディ・ショップに
なっていた。ここはたしか2年前は「Furusato」だったところで、ぼくがおそる
べしニッポンオババたちを観察したところである。アニタ・ロディックが5月の
株主総会で退任したことと関係があるのか、ないのか。何にしても、カラカウア
通りの「ありふれ」店舗たちの一角に発見したことは、少なくともぼくにとって、
ボディ・ショップのブランドイメージは急激な低下をもたらしている。
では、See ya!
Mahalo!
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(初出 1998年8月13日)
Thank you for your reading.
Copyright (c) 1998 by Keiichi Sakamoto/Palmtree Corp. Inc.
(c) 1999 by Keiichi Sakamoto/Surfrider/Palmtree Inc.
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(転載終了)
自慢させてほしいが、これを書いたのは1998年。
シュルツ自身もスタバの問題についてはこの時期、気づいていなかった
という点です。
(2につづく!)