大阪松竹座「壽初春大歌舞伎」。
恒例により、隣の「はり重」で観劇前の食事。
と、中年男性と少年が入ってきた。
隣に腰掛ける。
一見、親子のようにも見えるが、違う。
なぜなら、少年がふつうではないから。
ふつうではないというのは、なんか、「放っている」のだ。
そして注文した品が幕の内弁当。
少年だったらハンバーグとかじゃないの? と思うが、
幕の内弁当。やはりただものではない。
劇場に入ったら壁に貼ってあるポスターにその少年の顔があった。
中村祥馬(しょうま)
三代目 中村扇雀丈の部屋子として初代中村祥馬を
名乗ることになった由。
芝浜革財布、酒屋の小僧役でちょっと出た。
さっき隣で食事していた少年が舞台にいるのは不思議な感覚だ。
ここで歌舞伎の感想に移る。
<桂川連理のしがらみ(帯屋)>
まあ、観客の大半は愛之助目当てなのだろうなあ。
その愛之助、一番声が出ているし、演技も生き生きしている。
藤十郎は声がモゴモゴして、セリフがわからない。
二役の壱太郎がいい。
また、浄瑠璃 竹本谷太夫がすごく良かった。
信濃屋娘 お半役の壱太郎とのユニゾンが素晴らしかった。
<研辰の討たれ>
やはり見ものは愛之助演じる研辰と中車&壱太郎演じる敵討ち兄弟
との追いかけっこだろう。客席を走り回る。
愛之助が近くに来ると観客のおねえさまたちが
「こっち来てくれた!」
と歓声を上げる。いや、あなたに来たわけちゃうんやけど。
残念だったのは、「研辰の討たれ」も「芝浜」もそうだが、
場転換のときのモタモタ感。
暗転してやるのだが、回数が多いのと、時間かかりすぎ。
暗転しているその間、後ろのおねえさまたちが
「ほんで、次ゴルフいつ行くのん?」
とか
「サイトウくん、あれあかんやろ」
「そやな、サイトウくんにはまだ店、任せられへんわー」
といった、現実の話を始める。
せっかく物語世界に入っているのに集中力が切れてしまう。
かと思えば並びの席のおばーちゃんがスマホを懐中電灯にして
チラシを見ながら復習を始め、今度その電気の消し方
がわからずモゴモゴし出すし。
研辰の討たれ、勘三郎の野田版のほうがぼくは好きだ。
やはりあの話は速度、スピードがないとね。
<芝浜革財布>
これも海岸の場から始まるが、不要かもしれない。
みんな知ってるからだ。
ぼくなら花道から政五郎(中車)が自宅の長屋めがけて
大慌てで駆けてくる場面から始める。
海岸が終わって、また暗転で、モゴモゴしたから
後ろのおねえさんが今週末土曜日「歌う会」に出ることまで
知ってしまったではないか。
でも、ラスト、落語との「違い」を出そうという演出、脚色が面白かった。
総じて、今回久しぶりに歌舞伎を観て、収穫は若手
壱太郎と祥馬に出会えたことだなあ。
歌舞伎はスーパー歌舞伎、平成中村座、コクーン歌舞伎、
そして古典的な歌舞伎とずっと観てきている。
やはり、ぼくにとっては(あくまでぼくにとっては、だが)、
阿弖流為のような歌舞伎が伝統を次代に伝える表現方法なの
ではないかと思えてならないのだ。
とはいえ、素敵な若手がいる。
彼らが、どんな新しい表現をしてくれるのか、とても楽しみだ。