ブランドを創造する、というと、「攻め」のイメージが強いし、

もちろん経営の「攻め」の部分を担っている。

しかし、野球で守備につくことをただ「守る」ではなく「アウトを取りに行く」

ととらえるように、ブランドには「守りながら攻める」側面があることは

とても重要で、忘れてはならない。

ブランドは、その体現する価値とファン顧客との心的感情的絆がほんものかどうか

が問われるのは、イケイケの時ではなく、落ちた時だ。

アップルが苦境の時支えたのは、濃いファンである。

2012年度第1四半期の売上高が過去最高の463億3,000万ドル、希薄化後の1株当たり

利益が13.87ドルで、前年同期のほぼ倍の実績を上げているが、アップルブランドが

真価を問われるのは、飛ぶジェットすら撃ち落としかねない絶好調の今ではなく、

山を下り始めた時(それが来るのか、来たとしても時期がいつかはわからないが)だ。

昨日ここで紹介したスターバックス創業者ハワード・シュルツの本に、非常に示唆的な

エピソードが書かれている。

スターバックスが経営環境上最悪のリーマンショック直後12月4日にニューヨークで

開催したアナリスト会議(ただでさえ胃の痛くなる会議だ)。スターバックスの財務状況は

かつてないほど悪く、下手すると会社そのものを買収されるかもしれないほどだった。

アナリスト会議直前、ストレスで苦しむシュルツに、取締役の一人が、こう言う。

「どの企業も苦しんでいる。しかし、スターバックスには語るべきものがあるのだ。

本当の物語を、世界で最も尊敬されるブランドの一つであるわたしたちの一年間を、

在庫を調整しリスクをとってきた一年間を語ればいい」

語るべきもの。

本当の物語。

ブランドは、山を登る時だけ必要なのではない。

不本意ながら下山しなければならない時こそ、必要なものなのだ。

ブランドがあればこそ、また、高みを目指せる。