JOYWOW横浜前の坂は割と急だ。

下りていて、つい手がすべり、スーツケースが腹打ちした。

水泳の飛び込みの、あの、パーン! という感じで倒れた。

これで出し入れする伸縮ハンドルが効かなくなった。

手のひらで握る部分の真ん中にボタンがあり、

そこを押すと留め金が外れてハンドルを上下できる

のだが、そこが壊れたようだ。

坂の途中で、雨も降っていて、あまり深く考えず、

ボタンを押したらそのとき、ふわりとハンドルが下がった。

あーよかった・・・と思ったのが最後、

以降は二度と上がらなくなった。

買ったのは東京駅隣接の大丸である。

その朝、新大阪駅で新幹線に乗ってからスーツケースの

ハンドルが大破してしまっていることに気づき、

東京に到着してすぐ大丸で買ったのだった。

それから半年も使ってない。

移動量がハンパないので、酷使しているには

違いないが、それにしてもいまここでハンドルが壊れると

困る。大変困る・・・言ってもいられないから、抱えて坂を

下りた。

以来、そのスーツケースは自宅書斎であぐらをかいたままである。

ふと今朝、自宅近所に「修理」の店があることを思い出した。

スーツケースを抱え、ドアを開けた。先客がいて、待ってる間

店内を見回し、失敗したと思った。

修理には違いないが、靴底と鍵の修理店なのだ。

ブランド・エッセンス的に、マーケティング的に勝手に脳内で

「靴と鍵の修理を売っているのではない、不便をなくしているのだ」

と解釈してしまっていたようだ。

ぼくの順番になり、恐縮しながら

「さすがにこれはダメですよね・・・」

と話しかけると、気の良さそうな青年は

「見せてください」

と嫌な顔一つせず見てくれた。

そして分解、分解、また分解して、

結論として、ハンドルの取手部分そのものを交換しないと

直らないという結論になった。

こうなるとこの店では修理できない。

ぼくは感謝した。

「メーカーさんにもっていけば直るとは

思いますが、そのための費用対効果ですよね・・・」

青年は言う。ぼくはもうこれで納得したから

修理せず、廃棄することにしたと言った。

またもダメモトでこの店で廃棄処分してくれるかと

聞くと、やってくれるという。

費用を支払うのでいくらでしょう?

要らないですよ。

診てもらった費用支払います。

要りません。直らなかったんだし、むしろお時間取っていただいて、

申し訳ないです。

それはいけない、何か買います。

いえいえ、今度靴で何かご用ができたときで結構ですから、来てください。

無理して要らないものを買わなくていいです。

ぼくはひたすら恐縮し、お礼を言って、店を出た。

雨がひどくなっていたが、とても清々しく、正当派仕事人に触れて、

嬉しかった。

何もできないけど、でも、どうしてもすぐに気持ちを

伝えたかった。店の並びにコンビニがあった。

そこでコーヒーを買った。

彼がコーヒーを飲むかどうかは知らない。

でも、どうしてもお礼がしたかった。

持って行った。

青年は大変恐縮して、コーヒーを受け取ってくれた。

この話に経済的商取引はない。

現金は動いていない(コンビニのコーヒー代は動いたが)。

何と言えばいいのか・・・。

嬉しかったのです。

好みでシールを貼り、オリジナルデザインができるのが売り。ひ弱でした

好みでシールを貼り、オリジナルデザインができるのが売り。ひ弱でした。写真は制作途中に撮ったもの