大阪・天満の喫茶店にいた。分煙の「ぶ」の字も存在しない、トラディショナルな

けむりもうもうの店だ。

メニューはコーヒー、ミックスジュース、サンドイッチ、カレー、ナポリタン、

なんでもござれである。

壁には「コーヒーおかわり 450円の「450円」の上にバツマークで→150円」

の貼り紙が。

 

これを書いている車窓から見える景色。大阪ではありません

これを書いている新幹線車窓から見える景色。大阪ではありません

 

隣には典型的な大阪のおばちゃんが二人。

おばちゃんたちが座った段階で、何か「事件」が起こりそうな予感はした。

そしてボギー、オレの予感は当たった。

おばちゃんたちが注文した品が運ばれ、直後に「ただならぬ」空気の変化が

隣で、した。

何事? と見たらぼくの隣のおばちゃんが「あわあわ」言ってる。

おばちゃんはナポリタンを頼んだ。

パルメザンチーズをかけようと、容器のふたを開けたら

中からゴキブリがドバー、と飛び出したらしい。

「ほら、ここにおる、あそこにもおる、そこにも!」

ナポリタンオババの向かいのおばちゃんはサンドイッチを

頼んでいたのだが、どこ吹く風で大きな口開けてかぶりついている。

テーブルはさんで動と静。

二人はお連れのはずなのだが。

その光景も何ともシュール。

店のおやじが飛んできて、ゴッキーをテーブル拭きのナプキンで

ざらーっ、と取る。

「すんまへんな、すんまへんな」

言いつつあっち行ったが、床に一匹落として行った。

おっさん、ちゃんとせーよ!

仕方ないからぼくがそれを紙ナプキンで拾い、厨房へ持って行った。

サンドイッチオババはその後も黙々と食べ続けた。

やがて新しく作り直したナポリタンが運ばれてきた。

「チーズはさすがに要らんわ」とナポリオババ。このセリフ、ぼくに

向かって笑いながら言う。

「そうやね」とぼく。

と、それまで黙っていたサンドオババが

「熱かったんやで!」

何?

「熱かってん。ナポリタンの上に落ちたやろ。熱かってん。

ほんで、ぷわーっとあちこちに飛び散ったんやと思う」

ゴッキーのことか。サンドオババは、続ける。

「靴、はいてたら良かったんやけどね」

ぼく「そうやね。靴はいてたら熱い思いせんでよかったんやけどね

・・・って違うでしょ!」

と、サンドオババ相手にノリツッコミ。

だんだん恐るべき大阪オババワールドが形成されていった。

「わたしね、もうね、気になって、どこ入ったんかわからんわ」

と、サンドオババ。

よう言うわ、あれだけむしゃむしゃ食べてたくせに!

「ここにまだおる」

「おねーちゃんのヨコ、3匹おるで」(と、ぼくと反対隣のカップル女性に)

今度はナポリオババが黙ってむしゃむしゃ。

ふと、ぼくに向かい、

「(チーズの)ふたがな、ちょっとあいててん。はじめから」

オババのゴッキー発見ごとに喫茶店マスターがやってきて

「ごめんな。ごめんな。明日クリーニングの業者来る予定になってたん

やけどな」

・・・って、おっさん、微妙に土俵のずれた話をしている。

「ごめんな。あんたら(オババたちのこと)、笑顔で応対してくれてな、

わし、嬉しいねん。おおきにな。悪いな。席、替わる?」

とうとう、オババたちは、別の場所に移された。

オババたち、フードについていたアイスティを飲みながら、

えんえんしゃべりつづけ、時々、おっさんが

「あんたらの笑顔、ええなあ」

と言いにくる。

ぼくはおっさんがオババたちから代金を受け取るのかどうか気になって、

出るに出られず、やきもきしていたのだが、恐ろしやオババたち、

「ほな、行こか」

と言ってからまた落ち着いて座り直し、立とうとしない。

そう、大阪(オババ)はネタの宝庫なのである。