連載コラム「あなたも講師になれる!」VOL.2、いきます。

「あり方の重要性はわかった。では、どうやったら磨くことができるのか、
具体的なノウハウを教えてほしい」

当然の質問だよね。

もちろん、ぼく自身も日々これ精進、修行のつもりで生きているので、
自分が完成していて、その上で教えて進ぜよう、という「上から目線」
な姿勢ではないことを念のためお断りしておきますね。

このブログの鉄則として、「自分がやったこと以外は話さない」があるので、
ぼくがやってきたこと、やっていること、考えていることを紹介します。
それは─

「面白い」「面白くない」という自分なりの基準をもつ。

これは本でも、映画でも、演劇でも、テレビドラマでも、お笑いでも、何でも
そう。

自分の基準をもつ

ということは、

自分を好きになる

ということと同じ。

好きとか嫌いとかは理を超えている。
学問の世界であれば、「これは正しい、これは間違っている。理由はこうだ」
とはっきり線を引けるけれど、芸術の世界では、市川猿之助の言葉を
借りるなら「ちょうど料理のように好きか嫌いかの世界」。

「いくらおいしくても、『私、中華料理は嫌いよ』という人がいるでしょう。
そうした好き嫌いの世界に理屈を持ち込んで、これは正統だとか異端だとか
いうのはちょっと違う」
(市川猿之助×横内謙介『夢みるちから スーパー歌舞伎という未来』
春秋社、p.87から引用)

10年前の本ですが、いまも新しい

10年前の本ですが、いまも新しい

猿之助は歌舞伎論の中で話しているので、「正統」「異端」という
話になっているけど、ここではちょっとそこの部分は置いておいて、要するに、
「理を超えた世界だ」という点です。
講演は、「正しい、間違っている」を超えたものだと思うんだ。
唯一正しいことを伝え、聴きにきている人全員を納得させようとするなら、
それはbrainwash、つまり洗脳なわけで、そんなことありえないし、
ぼくたちがやりたいことでもない。アジテーションともいうね。
ヒトラーの演説みたいに。

もちろん話す内容は理論物理学や数学のように透き通った論理が
背骨になければならない場合もある。しかし、ぼくが「いま」論じたいのは
講師としてのあり方の磨き方だ。

話す内容に論理があってもいい。いい、というか、「正しい、間違っている」が
あるのは当然だけど、だからといって話す本人は芸術家であってほしい。
アーティスト。

アーティストって何かっていうと、それは「自分が好きな人
じゃないかな。

まず、自分の好きなこととそれを好きでいる自分を好きになること。

これがあり方を磨く第一歩だと思う。

講演で話している最中、当然だけど、オーディエンスの反応が気になる。
前列のほうでウンウン、うなずいてくれている人がいる。
こういう人がいると嬉しいよね(でも残念ながら、その人はただ単なるクセで
うなずいているだけ、話を理解したり納得した上での肯定のうなずきじゃない
ことが多いので要注意(笑))。
あくびを連発している人がいる・・・ぼくの話、面白くないのかな?
やっぱり、ぼくじゃ、ダメなのかも・・・。この講演、失敗か?・・・

「成功」と「失敗」を持ち込まない、という言い方もできる。

2009年大晦日の紅白歌合戦にサプライズで出演した矢沢永吉。
超有名曲「時間よとまれ」を歌い始めたのだけど、歌詞ボロボロ。
間違いまくり。紅白は歌詞がテロップで出るから視聴者にはわかるし
そもそも有名な曲だから、みんな、エーちゃんが間違っていること、
気づいている。

でも、エーちゃんにとって、歌詞の間違いなんてものは、カンケーないのだ。
揺らがず、あわてず、堂々と最後まで歌いきった。
「間違えて、ごめんなさい」
も、なし。

後に中島美嘉があのシーンを「矢沢さんはすごい」と振り返っていたが、
それほど同じ歌手でも動揺するであろうシーンだったわけだ。

つまり、エーちゃんにとってステージとは、「あり方」をプレゼンテーションする
場所であり、楽曲はその手段の一つにしか過ぎない。

過去、こんな言葉も残している。

「コンサートは、
音を聴くだけのとこじゃない。
何か気持ちをもって歌ってる男に、
会いに行くものなんだ。」
(矢沢永吉写真集 19490914 THE LIFE OF EIKICHI YAZAWAより引用)

これと同じ。
講演するあなた。
オーディエンスはもちろんあなたの話を聴きにきている。
しかし、その前に、

あなたに会いにきている

ことを忘れてはいけない。

だからと言って

「私の話を聴いた結果、私を好きになってほしい」

というのはまた違う。

オーディエンスが自分の話を聴いた結果自分を
好きになるかならないかは知ったこっちゃない
のだ。

なぜなら、そんなこと、コントロールできるはずがないからだ。
しかも、自分を好きになってくれたかどうかなんて、どうやって
知ればいいのか。そんな方法は、ない。

だとするなら、徹底的に自分を肯定することだ。
そうしないと、講演中に「成功」「失敗」の二つの言葉が
脳内を駆け巡る。
そして人間の常として、「よいこと」と「わるいこと」の二つが
あったとすると、イメージングしやすいのは
「わるいこと」が圧倒的に強い。
つまり、「成功」「失敗」を同程度にイメージしながら話したとしても、
「失敗」が実現する確率が圧倒的に高いんだ。
しかも、しかもですよ、ここからがとても大事なんだけど、
そのように「成功」「失敗」をイメージしながら話して、ロク
なプレゼンテーションになるはずがない。

あなたはアーティスト。
アウトプットはアート。
好きか嫌いかの世界だから、コントロール不能。

理を超える。

まず、ここをしっかり腹に収めよう。
(つづく)