永ちゃん(矢沢永吉)は「最新」が一番おいしい稀有なベテランアーティストだ。

その永ちゃんが、最新アルバムについてインタビューで語っている中に、とても

印象的なフレーズが。

「TAKE1のパワー」というものだ。永ちゃんの言葉そのままではないが、趣旨は

次のようなもの。

TAKE1はミュージシャンも本番意識がなくて演奏している。しかしそこに原石の

ような息吹がある。今回のレコーディング、こっそりTAKE1を録音していた。

本番とは思っていないから、リラックスしているし、そこにギタリストの魅力が

つまっていたりする。だから、そのTAKE1を使うことにした。そう言うと、

「えっつ!? あれ使うんですか? 勘弁してくださいよー ちゃんとやらせて

ください」

そこで「ちゃんと」やってみたら、やはりTAKE1のような勢いがない。

「荒削りだけど、魅力的。今回のアルバムはTAKE1を使った」

永ちゃんは昔から完璧主義で、手を入れて、入れて、入れまくって完成させる

人だ。その永ちゃんがライブ感を活かしてTAKE1を採用する、というのは、

非常に興味深かった。

関連して、こんな話がある。

葉山の海の家で、あるグループがライブをやった。

音の抜けがすっごく良くて、感動し、一発でファンになった。

当時彼らは自主制作的なCDを出していて、それを入手した。

CDも素晴らしく、何度も楽しんだ。

ある時、彼らが大手レコードレーベルからメジャーデビューするという

ことを知った。良かった! と自分のことのように喜んだ。

早速彼らのメジャーデビュー作を買って、聴いた。

違う。

彼らの持っていた独特のフレーズも削除されているし、何だか

音がおとなしく、ありきたりになってしまっている。

おそらく、レコード会社のプロデューサーという人が手を入れたの

だろう。

「いま ウケている音は、これだ」

とか何とか言って。

力関係は当然、ミュージシャンよりレコード会社のほうが強い。

「CD出してやっているんだ」

という態度なんだろう。言葉にこそ、しないにしても。

同じようなミュージシャンを、もうひと組知っている。

彼らは、車のラジオで耳にして、一発で気に入るインパクトある

声、ギターだった。

自主制作アルバムは、ボーカルと生ギター、そして打ちこみで

作ったチープな音だけど、それでも、勢いとか、味とか、空気感とか、

彼らのエキスがたっぷり入っていて、これまた何度もかけて

楽しんだ。

そのうち、彼らの声がテレビCMで流れるようになった。

ケータイ大手のコマーシャルソングに採用されたのである。

大手レーベルからメジャーデビューだ。

早速CDを買った。

結果? あなたの予想通り。

つまらない音だった。

ギターが持ち味だったのに、消されている。

たしかに音は増えたけど、とんがった部分がなくなって、

ありふれの海に落ちてしまった。

今朝、車のラジオで新作が流れていて聴いたけど、ダメだった。

ありふれてしまった。

どうして、大手レーベルのプロデューサーが手を入れると

ありふれてしまうのだろう。わからない。

でも、これって、原稿にも言える。

ぼくは現在取り組んでいる書き下ろし作品の原稿を、「寝かせている」段階

なのだが、極力、手を入れずに出しちゃおうと思う。

手を入れれば入れるほど、蒸気が消えてしまうから。

出来たてホヤホヤは、なんだかつじつまがあわなかったりする

ときもあるけど、それでも、TAKE1のパワーがある。蒸気がある。熱

を帯びている。

TAKE1の魅力って、たしかにある。