否定力

が必要だと思う。

話は長くなるが聞いてくれ。

今年6月ごろから、頭皮がちょっとおかしくなった。

若い頃からいわゆる脂漏性皮膚炎というやつ? あれがときたま

顔を出していた。広島時代に医者に行った記憶があるからもう、30年は

つきあっているのかもしれない。

皮膚にかさぶたができる。ちょっと見た感じではフケに見える。

かさぶたをぺろん、と剥がすと毛も一緒に抜けるので心臓に悪い。

ニューヨークに渡る直前も相当やられていたが、起業のごたごたで

頭皮どころではなくなったためか、知らないうちに治ってしまった。

以来、一度もならずにいたのだが、今年久しぶりに出た。

出るどころの騒ぎではない。

頭皮全体にヘルメットのように出たのである。

こうなると、頭皮なのか、一時的なかさぶたなのかわからなくなる。

主客逆転現象であり、まるでブランド・ジーンの論理やね わはは

・・・って笑い話ではない。

気になるから、むく。

むいてもむいても、また出て来る。

やっかいなのは、固まってきたら、剥がせなくなるのだ。

かくて、あまりに見苦しいので帽子を着用することになった。

ときは盛夏。

最初に帽子をかぶったのは忘れもしない、6月29日銀座でやった

田中・仲山・阪本ビッグウェンズデーツアー初日である。

その日、銀座松屋のヨージヤマモトで購入したばかりの帽子を

かぶって人前に立った。

実は、ここだけの話、ぼくは帽子が似合わないのだ。

いや。

ずっと似合わないと思い込んでいた。

しかし、かくかくしかじかの事情により、のっぴきならぬ状況に

追い込まれると、人間、なんとかしなければならなくなる。

そこで、やむなく帽子をあれやこれやと買い集めた。

結果、なんとか、まあ、似合うようになった(と自分で思っている)。

その間何もしなかったかというと、そんなことはなく、

医師に診てもらった。

最初に診てもらった東洋医学系の医師は

「あ。それ、イボやな」

どう考えてもイボとは思えないので、処方されたイボ用漢方薬は捨てた。

次に頼った西洋医学系の医師は

「あんた、髪の毛、ちゃんと洗ってるか? 洗ってないやろ!

一日に五回とか、とにかく、いっぱい洗いなさい」

完璧に違うと思った。

そこで悟った。

「これは自分で何とかしなさい、ということだ」

そこで

体質改善に取り組んだ。

食を変えた。

食わず嫌い王なので、嫌いなものはいっぱいあった。

それらをつとめて食べるようにした。

酸っぱいものとか、魚とか、発酵食品(お漬物)、ヨーグルトとかだ。

ビールは最初の一杯は許す。そのあとはハイボールかスパークリングワイン。

・・・「最初の一杯」がかなり長引くこともあるがそこは許してくれ。

腸内環境改善が必要だと、赤ちゃんの菌オプナニとか、シラカバ樹液とかを飲んだ。

また、ビタミンBを服用し、シャンプーは松の力に変えた。

そして何より、

「これは良い機会である。考えをあらため、次のステージに行くために起こっている現象である」

と考えた。

それまでのぼくは「薄い頭髪」キャラだった。

その後の歩みはおそらく以下のようなロードマップが自他共に認可されていたはずである。

薄い→かなり薄い→ない

薄毛には大きく分類して二種類あって、第一に、空軍パラシュート部隊型(宣教師ザビエルが

歴史的に有名である)、第二に、額がどんどん広くなる陸軍匍匐前進型。

ぼくは陸軍匍匐前進タイプなので、こうなることは必定と。

それを、否定した。

「これはいったん全部チャラにして、ゼロベースで新しい頭髪がボッサボサになるための

ものなのである」

と考えた。

忘れもしない、8月10日。夏休みで、ホテルに滞在していた。

ぼくはホテルのプールで泳ぐのが楽しみである。

しかしその頃には頭皮の脂漏性皮膚炎は固まっており、プラスチックのような

硬度を持っていて、いくらがんばっても剥がせなくなっていた。

シャンプーしても硬いままなので、鉄人28号は毎回シャンプーするたびこういう

感触なんだなあと思っていた。

プールに、滝スタイルの打ち水装置がある。

ひらめいた。

あれで、頭を叩いたら、プラスチックが割れるのではないか。

やった。

手応え、あり。

急いでパウダールームの鏡を見た。

水泳帽を脱いだら、写真を撮ってなかったことが返す返す残念なのだが、

ポップコーンが頭全体を覆っていた。

ほら、映画館で、「映画の盗撮は犯罪です」とカメラ男と共演している

ポップコーン男がいるでしょう?

あれみたいな感じ。

プラスチックが頭皮から剥がれて、ポップコーン化したのである。

それからは早い。

頭皮から剥がれて、それでもまだ一部が頭皮とつながっている

プラスチックを一枚ずつハサミでブチッと切っていく。

切る、切る、切る・・・

すると、もちろん髪の毛もごっそり、抜ける。

8月13日土曜日。世間ではお盆夏休みで海だ、プールだ、山だ、実家はやっぱりいいね、と

楽しんでいる最中、

ぼくは波平さんになった。

サザエさんのお父様のヘアスタイル、両側はしっかり髪があるが、中央は広い道路が

通っているという。

あるいは落ち武者か。あるいは真田丸か。

ぼくは否定した。

これはあり得ない。

このまま波平ヘアスタイルになることは、否定する。

代わりに、ボッサボサの自分を、イメージしまくった。

さて、それから一ヶ月。

どうなったか。

体質改善のおかげで脂漏性皮膚炎治った。

いまぼくは、帽子をかぶっていない。

そう、髪が生えているのである。

しかも、こうなる以前より、密度濃く。

このあたりの変化の自撮り写真はバッチリ残している。

やがて、本を書くつもりである。

『58歳、それでも毛は生える わたしの実践的ボッサボサ蘇り法』

これは売れるに決まっているので、出版社は入札で決めることにする。

印税の一番高い社から、出すのだ。

うしししししししし。

だからぼくは皆さんに、言いたい。

否定力を、持ちましょう。

墜ちてしまった人に共通しているのは

受け容れている

点だ。

否定しまくろう。

あってはならない。

これは自分じゃない。

と。

写真は本文とはまったく関係ありません

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