岸田袈裟さん(→)は30年近くケニアに暮らし、ふるさと遠野のかまどを

普及した。

エンザロ村には水道も電気も通っていない。

だから日本の家電製品を持ち込んだところで意味ない。

そこで、昔、遠野で使われていたかまどを導入すればいいと着想した。

それまでエンザロ村(だけではなくケニアの多くの村)では

地面に石を3つ並べ、その上になべを載せて料理していた。

これだと

(1) 調理するのにかがまなければならない

(2) 小さな子どもが寄ってくるとやけどする

(3) 石の間から熱が逃げるので、熱効率が悪い

(4) 食事の支度に時間がかかる

(5) 水を煮沸すれば飲料として安全・清潔になるのだが、

料理が済むと一仕事終えた感じで、わざわざ飲料水のためにもう一度

なべで水を沸かすまで、できない

上記5の影響は大きく、病原菌の混ざった水を飲んだおかげで乳幼児の死亡率が高かった。

遠野のかまどがエンザロ・ジコとして普及した結果、5歳前に死んだ赤ん坊は1人だけ

に激減した。それまでは7人に1人が死んでいた。

また、熱効率が良いので、薪(たきぎ)が1/4で済む。森林保護につながる。

エンザロ・ジコには3つのなべをかける口があるから、一度に3つの煮炊きが

できる。主婦の労働が楽になったのである。

エンザロ村の各家庭は、「わが家のエンザロ・ジコ自慢」といった感じで、

隣に調理台をつくったり、なべ口の上にトウモロコシをぶらさげておくことで

虫よけになったり、と、各家庭独自の創意工夫が見られる。

エンザロ・ジコは、製品として日本から輸入されたものではなく、

エンザロ村の土と牛糞で作る。

「かまどのある暮らし」というライフスタイルを習慣化させ、文化にしたのだ。

岸田さんは、ぞうりのつくり方も、子どもたちに教えた。

ケニアではぞうりはパティパティと呼ばれる。

結果、はだしで歩くより清潔になり、病原菌が足の裏から入ることがなくなり、

感染症発症率が下がった。

「ぞうりのある暮らし」が、文化として、定着したのである。

岸田さんがJICAボランティアとして1991年に赴任した目的は「人口抑制」だった。

現地で主婦たちと20回以上も話し合いをした結果、人口抑制のためには乳幼児の死亡率を

下げる必要があると判断した。その結果の活動だ。

素敵な絵本『エンザロ村のかまど』

素敵な絵本『エンザロ村のかまど』