レストランは料理を売っているのではない。

人生の大切なひとときを演出するステージ

を売っている。

料理がおいしいのは当たり前。

ステージにゲストを上げなければならない。

一生の思い出に残るステージ。

ゲストをステージに上げるのは料理ではない。

店のスタッフだ。

スタッフの笑顔。

とびきりの笑顔。

いかなるコストもかからない。

ところが、面白いことに、オーナーが「コスト削減、コスト削減。

売り上げをなんとかして上げろ!」と言い出したとたん、

コストのいっさいかからない笑顔が

スタッフから消える。

私語が増える。

そのレストランは、淀屋橋のビジネス街ど真ん中にあり、

洗練された(sophisticated)街並みにふさわしいブランド

として、ぼくは愛していた。

ところが。

昨日行ってみたら、「空気」がまるで違っていた。

エントランスで出迎えてくれるスタッフから、まず、違った。

違和感をもちつつ、お気に入りのカウンター席に座った。

尊大な黒服が、オーダーを聞く。

笑顔がいっさい、ない。

以前訪れた時、キビキビした動きと笑顔で接客してくれた女性

スタッフにも笑顔がない。

フォアグラを食べているのに、

「その上にトリュフはいかがですか?」

とちんちんかんな提案をしてきたり。

要するに、「客単価」を上げたいのだ。

以前、「飲み比べいろいろお楽しみ」という企画では

グラスをあふれさせるほど日本酒を入れてくれた。

しかしいまは「コスト削減」のため、半分くらいしか、入れてくれない。

しかも尊大な態度だから、まるで「配給」を受けているようだ。

お酒飲み比べだから、お酒についての情報や物語を、いっぱい話してくれた。

今回、いっさい、なし。

お金を支払うのが、こんなに「つまんねーな」と思ったことは久しぶりだ。

お客さんはよく知っている。

ガラガラなのは、けっして、この時間帯にワールドカップの生中継があるからだけではない

はずだ。

レストランは、大阪市北区だけでも、星の数ほどある。

行くところは、ほかにいくらでもあるのだ。

レストランは、ステージ経験を売る。

そしてそのステージは、「いつ行っても前回よりも上回ったもの」で

なければならない。

お客さんは、二回目に来訪したとき「前回の確認と、それ以上の期待」

をもって来る。

これを、2回目の真実という。